タイ便り(絵葉書から)⑨
1996.4.28(日) 晴れ
「日は対岸の暁の寺(Wat Arun)のかなたへ沈んでいた。しかし巨大な夕焼けはニ、三の高塔を影絵に縁取るほかは、トンブリの密林の平たい景観の上の広大な空を思ふさま鷲づかみにしていた。密林の緑はこのとき光りを綿のやうに内に含んで、まことのエメラルド色になった。サンパンはゆきかひ、鴉は夥しく、川水は汚れ薔薇いろに滞んでいた。」
~三島由紀夫 豊饒の海 『暁の寺』より~
Bangkok の中心から北の Nonthaburiの街まで、チャオプラヤ川の往復2時間の船旅を楽しみました。船旅といっても、往復で18バーツ(約72円)の乗合ボートです。客はほとんど地元の人々です。
野菜市場、水上生活者のボート、この Wat Arun などが次々と現れてきます。まるで泥水のような色をした川で泳いでいる少年たちもいます。ミルクコーヒーのような川面を眺めているうちに、Bangkok の人々の心の源流に触れたような気がしてきました。
観光客がほとんどいない Nonthaburi の街が気に入りました。そして、三島由紀夫が書いたことを実感しました。
Bangkok にて